デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
一方、自分の月毛の馬に乗り、その紫色の瞳でゆっくりと王都の街を見渡す彼は、口元に小さく微笑みを浮かべていた。

(……ああ、見覚えがあると思ったら、ここは)

以前、桜と街に出た時に通った所だ。

たしかこのあたりで、桜があの男に頬を叩かれた。

血が沸騰するような、あの憎しみ。

初めて国民を手にかけようとした。あの時確かに自分は王ではなくなっていた。

ふっと笑い、またしばらく行くと、串焼きの屋台があった。馬上から見ると、随分小さく見える。
その横に、串焼きの主人とおかみが深く礼をしてひざまずいていた。

おそらくもう味わうことのないであろうあの不思議な料理を思い出して、また微笑む。

(……たいそう、美味であった)

そう心で言い、彼らの健康を祈る。

掃き清められた道、静かな空気、深く礼をする住民たち。
甲冑や槍のぶつかるカチャカチャという音と、馬の蹄の音、自分に付き従う武官たちの足音と、近侍たちの乗る馬車の音。

自分にとっての『王都』とは、長い間それが全てだったのに。

いきなり現れた異世界の少女に、何もかもひっくり返されたのだ。

苦笑いして、なおも隊列の先頭に立ち、馬を進めた。
< 1,014 / 1,338 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop