デブスの不思議な旅 ～恋と変と狂愛？と～

一斉に、十字路や大通り沿いにいた王都の民たちが悲鳴を上げて飛び上がった。

「我が君！！」

近衛が条件反射で自分を取り囲もうとするのを、彼は素早く手で制した。

静かな空気は一転、驚きと恐怖に震えて、皆大通りを右往左往していた。

それを努めて落ち着かせ、道の脇へと戻そうとする近衛や文官たち。

その様子を見ながら、王は静かに馬上にたたずんでいた。

その紫の目が、油断なく左右に動く。


研ぎ澄まされた感覚が、『その気配』を感じた。


「来るぞ。統括長、合図をせよ！」

凛とした声が響く。

「はっ！！」

緊迫した声が王の後方から聞こえたと同時に、ごった返す住人たちの中から黒い影が次々と空中へ飛び上がった。

「―――『魔』だっ！！」

誰かの叫び声が上がり、その場は一層の恐怖に叩き落される。

青い狼煙が上がる中、パニックになった住人たちが逃げ惑い、空中へ舞い上がる影はどんどん増える。

まるで巨大な黒い鳥の群れのように膨れ上がり、狂ったように笑いながら飛び回った。