デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
すうすうと寝息をたてはじめた桜。

シュリはアスナイに向きなおった。

『アリガトゴザマスって、何だろうな。何回か聞いたが』

『さあな。興味もない』

残った薬の袋を荷物につめながら、アスナイはサラッと流す。

『分からんが、何だかいい響きの言葉だな』

『…』

ふと、アスナイは自分の中のイライラが治まっていることに気付く。

自分が薬湯を飲ませようとしたら顔を背けたくせに、シュリが言うとすんなり応じたあの時は本当に爆発寸前だったのに。

自分の名前を呼び、『アリガトウゴザイマス』と言った桜の声を思い出した。


(そうか。…あの娘の声は、耳に優しいのだ)

そんなことを思う自分に少なからず驚きながら、黙々と薬の袋をつめる。

おそらく、あれは感謝の言葉。

だが、こいつには教えてやらない。

かすかな微笑が、アスナイの唇に浮かんでいた。
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