デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
すくなくとも、自分の住んでいる町ではなさそうだ。
「そうだ…私、川に、落ちて…」
徐々に、自分の身に起きたことを反芻する。
死ぬんだな、と悟ったところからは、記憶がない。
よく、生きてたな…
今更ながら、恐ろしさで身が震えた。よく無傷でいられたものだ。
スマホも財布もなくなっていて、スウェットワンピもスニーカーもぐっしょりと濡れている。
「とにかく、帰らなきゃ…警察署、探そう」
デブスの上に、この格好で街中を歩いたら間違いなく遠巻きにされるだろうが、仕方がない。
それにしても、水を吸っているとはいえ、こんなにも重いものだろうか。
桜はたまらずワンピの裾をギュッと絞った。
すると、大量の水が出てきたのだが、普段見慣れているような、『バシャッ』という落ち方はしない。
なんとも形容がしがたい、『スルスル、ストン』という動き。水あめのようだが、不思議なことに粘り気は感じられない。
「うわっ、なに、この水…」
桜が初めて気付いた、この世界の奇妙な点だった。