デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
「だから、これは命令ではない。私に、そなたの世界の事、教えてくれないか?桜」

嫌ですと言える雰囲気ではない。
それに、自分の身柄が王の預りになるのはもはや決定事項のようだから、抗っても無駄だろう。

でも、この王様もそれが分かってて言っている。

客人と言う割に、シュリやアスナイがしてくれるように、対等に話をされている気はしない。

じゃあやっぱり、体のいい命令ではないか。

「わかりました。私はそんなに詳しいことは説明できないと思いますけど…」

桜が頷くと、王は嬉しそうに笑った。

「礼を言う。久々に、新鮮な話が聞けそうだ」

「でも、私からもお願いがあります」

桜の一言にシュリとアスナイがぎょっとした表情になる。

金髪の少年の目が、キッと細められた。

「私にも、こちらの世界の事が分かるようにして頂けますか」

王に、交換条件を持ちかけるとは。不敬として罰せられてもおかしくない。

怖いもの知らずとは、まさにこの事だった。

二人がはらはらしながら見守る。

当の王は目を丸くして桜を見たが、フッと吹き出すと声を出して笑い始めた。

「あいわかった。では、この世界の事は私が教えよう。ふふ…そうだな。無礼を許せ、桜」

屈託のない笑顔。

初めて、王が本当の表情を見せた。
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