デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
「え、それ、ほんとですか!」

桜の笑顔が大きくなる。嬉しい。これっきりじゃないんだ。

「ああ。我が君が、そうしてくださったんだ」

アスナイが頷いた。

「王様が……」

呟いて、目をしばたかせた。

「ああ、だからまた近いうちにな。お前も大変だろうけど、王の客人のうちは安全だから、どーんと構えろ。それでも無理なら……お前をさらいに来る」

シュリが笑顔で言った。
最後の一言がまるで告白のようだと思って、桜は顔を赤らめた。

「桜。基本的に、宮中では人の好意に注意しろ。化け物も裸足で逃げ出すような連中だっているからな。王のそばを、なるべく離れるな。分かったな」

アスナイが真剣な表情で言った。桜が頷くと、やっと少し笑う。

「…ああそうだ。そういえば、こいつがこの間どさくさに紛れて、お前の手にけしからん事をしてたな」

チラリと横目で同期を見た。シュリはフイと横を向き、

「お前がトロくさいのが悪いんだろ。やったもん勝ちだ」

右手に軽く押し当てられた唇の感触を思い出して、ますます桜は赤面する。

「じゃあ、俺も最後にさせてもらおう。……桜、左手を」
「えっ……えっ!?」

戸惑う彼女の左手を取って、自分の口元へそっと寄せた。

次の瞬間。

グイ、と強い力で引っ張る。前のめりになった桜の体を受け止めて、その右頬にキスをした。

「!!???」
「てんめぇ、アスナイ!!」

目を回しトマトのようになった桜と、猛抗議するシュリ。

いつものようにフンと涼しく笑い、シュリに言った。

「やったもん勝ちだ」
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