デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
いつもの戸の前に着いた。

昨日の出来事を思い出して、なんとなく入りづらかったが、無情にも女官が戸を開け帳を払った。

にこっと笑って、王が桜の手を取る。

「おいで」

(普通だ………)

何だか自分がどぎまぎしたのがばからしくなる。

(まあ……王様にとってはあんなの何でもないことなんだろうしなあ)

「どうした?」

のぞき込む王に、首を振ってみせた。

(あ、そうだ、昨日大事な事言ってないよ)

あの、フード付きのマントに身を包んだ『魔』。

あの人のせいで、王様にとんでもない脅しをかけられるハメになった。

「王様、あのう、昨日の……私が会っていた人の事なんですけど」

桜の真面目な表情に、ふと真顔になってうなずいた。

「ああ、そうだったな。あやつは一体…?」

桜は話した。すれ違った『魔』と、街に出るたびに出くわすこと。言われた事やされた事。

みるみるうちに、王の顔がしかめられた。

厳しく目を細め、桜を見据える。

「なぜ、そんな危険な目に遭っているのに私に言わなかった」

その叱責に小さくなった。

「すみません、つい……今まで実害がなかったから」
< 781 / 1,338 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop