デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
桜は顔を赤くして、やっとほんの少しだけ笑って言ったが、王は苦い表情をした。

「それなのだがな、桜。明日、そなたには神宮に行ってもらわねばならん」

「え」

思わず目を丸くして、相手を見返した。

「しんぐう……って、たしか、神児さんの?」

「ああ。そなたに会いたいと、使者を通して私に言ってきた。……あまりそなたを長時間、王宮から一人で出したくはないのだがな。まして、この物騒な時に」

「そうですか……」

そういえば、ここに初めて来たとき、王宮神処のあの老神官が、いずれ神児からのお召があるだろうと言っていたっけ。

「わかりました。行ってきます。神児さんからのお願いなら、王様も聞かないといけないですもんね」

しかめた顔のまま、いかにも渋々と言った感じで王は頷く。

「朝餉のあと、迎えをやる。準備を終えておいてくれ」

「はい」

「………」

ちら、と紫の瞳が桜を見た。すでにソファから立ち上がり、カナンのもとへ急ごうとしている。

「……聞くなよ」

低い声が、はやる心に小さく待ったをかけた。

「え?」

「………」

振り向き、聞き返す。

「……元の世界への帰り方など………神児に聞くでないぞ」
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