デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~
わずかな不安に、むつっと口を結んだ。

「王様……」

「……神児に、心を移すな。魅入られるなよ」

「ハ?」

思わず目が点になる。

なんという幼稚な独占欲。そう思って、王は恥ずかしさに目元を染めた。

だんだんこの娘の前で、桜に見せたくないようなみっともない自分の心が、むき出しになる事が増えてきた。

「神児さんって、男の方なんですか」

「違うが……」

へぁ??と桜は思わず眉を歪めた。

「いや……私、ソッチの趣味はないですから」

呆れる彼女を睨みつける。

「分かったものではない。……行って、神児に会えばそなたも理解しよう」

訳の分からない言葉に、「はあ……」と曖昧な返事をして、桜は部屋を出ていった。



遠くなっていく桜の足音を聞きながら、王は冷たい表情で聞こえないくらいの舌打ちをした。

公宮で抱いた、王として、主君としての慈しみと厳しさを含んだ感情とは全く真逆の、ドロッと黒い、淀んだそれ。

どちらも真実の彼だ。

(鬱陶しい羽虫。今日はカナンで、明日は神児か。愛する花から一匹いなくなったと思ったら、また一匹わいて出る)

…………邪魔だ。
< 874 / 1,338 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop