月が欠けて満ちる間に、たった一つの恋をしよう
はじまりは月の下


「店長、お先に失礼します」

 アルバイトの西宮(にしみや)から声をかけられて、矢上宗司(やがみそうじ)はモニターから目を上げた。


「お疲れ。まだ残ってる奴、いる?」

「いえ。俺で最後です」

「そうか。気を付けて帰れよ」


 軽く手を上げれば、西宮は長身を窮屈そうに折り曲げて頭を下げた。

 事務室のドアが閉じられてから一呼吸の間を置いて、矢上は大きく伸びをした。


「俺もそろそろ帰るか」


 壁の時計を見れば、もう十二時を回っていた。

 モニターを眺めすぎた目が渇きと疲労を訴える。

 目頭を軽く揉んでほぐすと、彼は帰り支度を始めた。
< 1 / 24 >

この作品をシェア

pagetop