月が欠けて満ちる間に、たった一つの恋をしよう
はじまりは月の下
「店長、お先に失礼します」
アルバイトの西宮(にしみや)から声をかけられて、矢上宗司(やがみそうじ)はモニターから目を上げた。
「お疲れ。まだ残ってる奴、いる?」
「いえ。俺で最後です」
「そうか。気を付けて帰れよ」
軽く手を上げれば、西宮は長身を窮屈そうに折り曲げて頭を下げた。
事務室のドアが閉じられてから一呼吸の間を置いて、矢上は大きく伸びをした。
「俺もそろそろ帰るか」
壁の時計を見れば、もう十二時を回っていた。
モニターを眺めすぎた目が渇きと疲労を訴える。
目頭を軽く揉んでほぐすと、彼は帰り支度を始めた。
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