月が欠けて満ちる間に、たった一つの恋をしよう


「熱いから気をつけろよ」

「いただきます!」


 彼女は湯気が立ち上るカフェラテをふうふうと冷ましながら飲む。


「美味しい。私が蜂蜜入りが好きなの、知ってたんだ」

「当たり前だろ」


 店に来た彼女は、食後にいつもカフェラテを選ぶ。それも砂糖ではなく蜂蜜を頼むのだ。覚えないはずがない。

 事もなげに言えば、かぐやはカップをもった両手を膝の上に置き、目を伏せた。


「それは私が客だから?」

「……そう思っておけ」


 少し間をおいて返ってきた答えに、かぐやは小さな笑みを浮かべた。

 息は白く、空へ消えていく。

 その軌跡を追うように目を上げれば……


「あ、満月だ」


 かぐやの言葉につられて、矢上も空を見上げる。

 あれからもう一か月が経つのか、と思う。

 それきり二人は無言で手の中の飲み物を減らしていった。



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