月が欠けて満ちる間に、たった一つの恋をしよう
(この歳になって俺は何やってんだ?)
自分でもそう呆れるくらい純粋な想い。
しかし、自覚したと同時にそれは封印しなければならないとも悟っていた。
男は壁についた手と腹に力を籠め、瞬きを一つ。
それで想いは封印した。
あとは、彼女が自分を嫌いになるように仕向ければいい。
終わる。
終われる。
涙をためた目で見上げてくる彼女のおとがいを掴み、固定した。
驚きに目を瞠り、何か言いたげに開きかけた唇を、己のそれで塞ぐ。
「ん! んんん!!」
くぐもった声が抵抗を示す。
それを無視して矢上は、柔らかくて甘い唇を貪る。
全て喰らい尽くすような勢いで。
肩を弱々しく叩いてくる彼女の拳も知らぬふりで更に深く唇を合わせ、舌を彼女の口腔へ忍び込ませた。
噛まれても構わない。
そんな気持ちが胸をもたげた。
吹き飛びそうな理性をどうにかとどめ、頃合いだろうと唇を離した。
少女の頬に涙の軌跡をみとめて胸がずきりと痛んだが、それは巧妙に隠した。
「大人を煽るからこういう目に遭うんだ。覚えておけ」
紅潮した顔で荒い息を繰り返す彼女を、出来るだけ冷たく見下ろした。