月が欠けて満ちる間に、たった一つの恋をしよう
おとぎ話が終わる時

そして秋が巡りくる

 一年は本当にあっという間だった。

 冬が過ぎ、春と夏が瞬く間に過ぎて、また巡ってきた秋すらももう過ぎようとしている。

 矢上はいつも通り、通用口に鍵をかけて路地を歩き出した。

 つまづかないように目を地面に向けて気が付いた。やけに明るい。
 空を見上げれば、月が煌々と夜を照らしていた。

 忌々しいほどに明るいと、彼は小さく舌打ちをした。
 満月を見るたびに手の届かないところに飛び去った少女のことを思い出す。

 男は物思いを振り切るように首を振り、気を取り直して大通りへ向かった。
 しんとした路地から大通りに出れば、目が眩むほどに明るい。これなら月光があろうがなかろうが変わりはないだろう。そのことに安堵する。

「矢上さん」

 何かを考えるより先に、足がぴたりと止まる。

「矢上さん! 矢上さんってば」

「輝夜!?」

 振り向けばそこに一人の女が立っていた。
 懐かしい面立ち。しかし、思い出の中の彼女よりずっとずっと美しい。

「約束、覚えててくれた?」

「さぁ? どうだったかな」

「もう。相変わらず意地悪なんだから!」

 頬を膨らませて怒る彼女を見ていると、一年前に時が逆戻りしたような錯覚を覚えた。

「ずいぶん変わったな」

「まーね。矢上さんに会いたくて、必死で頑張ったから」

 屈託なく笑う彼女が眩しくて、矢上は目を細めた。
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