月が欠けて満ちる間に、たった一つの恋をしよう

「どうしてこうなった」


 矢上は大きなため息をついた。

 目の前ではあの夜の少女が、切り分けた肉をおいしそうに頬張っている。


「美味しいね、矢上さん」

「当たり前だ。うちのシェフが作った料理だぞ」


 ふんと鼻を鳴らし自慢げに答えると、少女は楽しそうに笑み崩れた。


「それより、かぐや。それ食ったらちゃんと帰るんだぞ?」

「うん。分かってる。大丈夫だよ」


 不機嫌な矢上にめげず、かぐやと呼ばれた少女はニコニコと笑っている。

 相変わらず仕立ての良い服に身を包んでいる。

 あの夜は分からなかったが、身のこなしも洗練されていて、テーブルマナーも完璧だ。


 そう言えばアルバイトの西宮が、店から少し離れた場所で黒塗りのでかい車から降りるかぐやを目撃したと言ってたな。と、少し前に耳にした話を思い出す。

 全くもって謎の少女である。


(かぐやって名前だって本名かどうか分からねぇし)



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