月が欠けて満ちる間に、たった一つの恋をしよう
「ねぇねぇ、矢上さん」
「……なんだ?」
営業中の店内で、ぞんざいな口調を使うのは違和感があって気持ち悪い。
背中がムズムズする。
が、敬語を使うと少女はむくれてしまうのだ。
最初の二日ぐらいは無視して敬語を使い続けていたのだが、あまりにしつこく「よそよそしい話し方しないで。普通に喋ってよ、普通に!」と食い下がってくる。
根負けした形で矢上は敬語を取り払った。
ただし、周りに他の客がいない時だけという条件付きで。
「明日、定休日でしょ? デートしよ」
「はぁ?」
間抜けな声が口を突いた。
「明日一日だけでいいの。私に付き合ってください! ダメ?」
「──なんで俺なんかに構うんだよ」
「矢上さんが好きだから。ねぇ、ダメ?」
「大人をからかうんじゃねーよ」
不愉快そうに目を細めた矢上の視線の先で、かぐやは大きな目を不安そうに揺らしている。