MIRACLE・雨の日の陽だまり~既婚者副社長との運命の再会~
 私は警察に電話したつもりだったけれど、よく考えたら『110』と押していない。
 どうやらあわてていて、発信履歴の一番上をタップしてしまったようだ。
 数日前、あのデザートバイキングの会場で私のスマホを勝手に操作し、登録したから試しにかけろと言われた番号に。

『今どこ?! ……聞こえてるのか?!』

「くっ……日下さん……」

 ようやくこのとき、両目から涙が零れ落ちた。
 泣いたら余計に声が出ないとわかっているのに。
 そうは思うけれど、耳から伝わる日下さんの声で涙が止まらない。

「聞こえて……ます……」

『どこにいる?』

 拙いながらも、私は最寄駅と自宅アパートの間の狭い路地にいることを伝えた。
 変な男に襲われた、というくらいしか、この事件の詳しい説明はできなかったのだけれど。

『今ちょうど車で移動中だったんだ。近くにいるからすぐにそっちへ行く。待ってろ!』

 そう言うだけ言って、私の返事を待たずして電話は切れてしまった。

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