MIRACLE・雨の日の陽だまり~既婚者副社長との運命の再会~
「飲まないのか? 冷めるぞ」

「……いただきます」

 私はソファーに腰をおろし、テーブルの上で湯気の立つカップを手に取った。
 口の前まで持ってくると、カモミールの香りが鼻腔をくすぐる。

 調書を終え、警察署を出た私が帰る場所というと自宅アパートしかない。
 だけどどうしてもそこに戻ろうとは思えなかった。
 今度こそ無事に戻れたとして、今夜一晩そこで過ごす自信がない。
 犯人はまだ捕まっていないのだ。
 警官が巡回を強化すると言ってくれていたものの、きっと怖くて眠れないだろう。

 警察署まで付き添ってくれた日下さんも、なにも言わない私からその気持ちを汲み取ってくれたようだった。
 それで、一番近いサンシャイン・ホテルの一室を私のために用意してくれたのだ。
 私はその厚意に甘え、今夜はホテルに泊まることにした。

 今飲んでいるカモミールティーも、日下さんが従業員に伝えて届けてくれた。。
 その細やかな心遣いに感謝したい。


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