MIRACLE・雨の日の陽だまり～既婚者副社長との運命の再会～
　とにかく大学に進学しておこうと考えてはいたけれど。
　医者になりたい子は医学部、法曹界で働きたい子は法学部、学校の先生になりたい子は教育学部を受験する。
　目標を持っている人は、自分の将来のビジョンがすでに見えている。
　そう考えると、私はとても遅れを取っているのかもしれない。

「参考になりました。ありがとうございます！」

　ハニかむようにして微笑むと、彼はまた優雅にロイヤルミルクティーを口に含んだ。
　何気ないその仕草に、心臓がドキッと大きく脈を打つ。

「私、将来のこととかあまり考えてなくて。ぼうっと生きてちゃダメですよね。恥ずかしいです」

「自分の人生をどう生きるのか決めるのは君自身だ。それをいつの段階で決めるのかは自由。俺だって君くらいの年齢のころは考えていなかった」

　フッと表情を緩める彼は、まったりとしたこのカフェの空間にとても融けこんでいる。
　なんだか不思議の国に迷い込んでしまったような感覚に陥った。

「私の元気と笑顔を活かせる仕事があったらいいな。将来のこと、考えてみます」

「別にこんな話をするつもりはなかったんだけどな」

　彼の口調は落ち着いていて丁寧だ。
　なんの変哲もない普通の若者らしい言葉遣いなのに、そこがまたアンバランスで不思議な感じがした。

　―― そのミステリアスな魅力に、取り憑かれそう。

< 181 / 262 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop