MIRACLE・雨の日の陽だまり~既婚者副社長との運命の再会~
 それから父子ふたりの生活が始まったのだが、父は徐々に酒を飲む量が増えていった。
 夜中に帰ってきたと思ったら、父のスーツから女の香水の匂いがプンプンしていることもあった。
 おそらく、キャバクラのような夜の店に出入りしていたのだろうと想像がつく。

 酒になんて溺れてほしくなかった。
 それもこれも、出て行った母親のせいだ。
 ずっとそう思っていたが、原因はそれだけではないとわかった。

 父は小さな会社を経営していたが、ここ数年ずっと経営難だったらしい。
 俺がそれを聞かされたのは、中学生のころだ。
 両親の不仲の一因は、それもあるのかと勘ぐったりしたのだが……

『母さんにはほかに好きな人がいたんだ』

 母親が出て行って四年ほど経ったころに、突然そんな真実を告げられた。
 俺と父が嫌になって、限界が来て出て行ったのかと思っていたけれど。

 ……そうではなかった。ただ、違う男を選んだだけだった。
 家族を捨ててでも、その男を選びたかったのか。

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