MIRACLE・雨の日の陽だまり~既婚者副社長との運命の再会~
 十年前のあの日だって、あのとき雨が降らなければ、私はカフェの軒先で雨宿りなどせずにそのまま素通りして駅に直行していた。そうなると彼には出会えていなかったのだ。

 再会した日も、もし雨が降らなければ、彼は傘を買いに雑貨店に足を踏み入れることはなかっただろう。
 そう思えば、かけがえのない彼と出会わせてくれた雨を、嫌いになんてなれない。

「それに、部屋の中にいるときは雨でもかまわないですよね」

「そうだな。こうしてベッドの中でひなたを抱きながら聞く雨音も悪くないな」

 いたずらな彼はわざとこういうセリフを言い、私が照れるのを見てよろこんでいる。
 そんなドSな部分があると、たった今知った。

「部屋の中にひなたという陽だまりがあるなら、外は雨でもかまわない」

 そう言いつつ私の額にキスを落とすこの人は、どこまで私を溺れさせるつもりなのだろう。

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