MIRACLE・雨の日の陽だまり~既婚者副社長との運命の再会~
「日下さんって、いつもそうなんですか?」

「なにが?」

「顔の表情が変わらないので。楽しいときは笑顔、悲しいときは泣き顔、怒ってるときは眉を吊り上げて……というふうにはならないのかなと」

 最初に運ばれてきた前菜料理をフォークで口に運びながら、日下さんは小さく首を縦に振った。

 ところでこの料理はなんだろう?
 豆とジャガイモと……ほかにもいろいろと野菜が混ぜられていて、それがオシャレな器に乗っている。
 どんな味なのか想像がつかなかったが、実際に食してみるとそれは思いのほかおいしかった。

「よく言われる」

「え?」

「だから、さっきの。表情が豊かじゃないとか。なにを考えているのかわからないとか」

「そうなんですか……」

「俺には感情がないから。無表情も当然と言えば当然なんだが」

 私は彼の発言がまったく理解できなかった。

 ――― 感情が、ない?

 それはどういう意味なのか。感情がない人間なんて、この世にいるのだろうか。

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