MIRACLE・雨の日の陽だまり~既婚者副社長との運命の再会~
「お客様、失礼致します」

 まだ心臓が落ち着かない中、先ほどのスタッフの女性が私たちのテーブルまで戻ってきて、同じ目線の高さになるようにスマートに腰を折る。

「本日頂戴いたしました代金は、返金させていただきます」

 女性スタッフが私と樹里に対して白い封筒をそっと渡してきた。
 中を確認すると、この会場に入るときに支払ったデザートバイキングの代金が入っていた。

「返金って、どうしてですか?」

 お金を返してもらう理由など見当たらない。
 ホテル側になにか不手際でもあったのだろうかと、樹里と顔を見合わせる。

「副社長から返金するように言われましたので」

 にっこりと上品な笑みをたたえて女性が言う。

 そこでピンと来た。なにも特別な理由なんてないのだ。
 日下さんが気を利かせて、返金しろと女性スタッフに指示したのだろう。
 私が日下さんと、少しばかり知り合いだというだけで。

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