TRUE
はっ、と我に返ったわたしは、彼に声をかけた。
「あの〜、」
わたしに気づいた彼はあまり驚く様子を見せず、こっちを見てクシャっとした笑顔で微笑んだ。
「桜、すごいきれいだよね」
落ち着いた声で彼が言った。
「えっ、あ、はい!」
急に言ったのでわたしは動揺して、変な声を出してしまった。
恥ずかしさで真っ赤になった顔を見られたくないわたしは、うつむいた。
でも、頭になにか触れた感じがしたので、すぐに顔を上げた。
カシャッ!
顔を上げた先には、スマートフォンのカメラがあった。
「うん、よく似合ってるよ」
優しく微笑んだ彼は、頭に桜の花が2つついているわたしの写真を見せてきた。
「俺、ヒロヤ。きみは?」
「わたしは、セイナ」
かわいい名前だね、と彼はまた優しく微笑んだ。
「今日さ、サボっちゃお?!」
急に明るく言った彼は、わたしの手を引いて走り出した。
ついた先は、少し離れた公園だった。
ブランコとすべり台だけしかないその公園には、つくしやたんぽぽがたくさん咲いていた。
販売機でジュースを買ったわたし達はブランコに座って休むことにした。
久しぶりに走った後だったからか、ジュースはいつもより美味しく感じた。
「セイナってどんな字を書くの?」
「星って字に野菜の菜。」
わたしは自分の漢字がきらいだ。
野菜の菜じゃなくて、他の子みたいに奈良奈という字のほうが女の子らしくてかわいい。
「星の菜ってことは、お母さんはスターフラワーが好きでしょ?!」
馬鹿にされると思っていたので、目を輝かせて聞いてくる彼にとても驚いた。
そしてわたしは、スターフラワーというものがなんだかわからなくて、しばらく首をかしげていた。
すると、彼がいきなり立ち上がって、公園の奥にある花壇から一輪の花を採ってきた。
「これ、スターフラワー。漢字で書いたら星菜。」
「あ、これ…」
その花は、小さい頃家でよく見た花だった。
お父さんが死んでからは、うちでは花なんて飾らなくなったから最近は見ていないけど、よく覚えている。
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