愛されたい、だけなのに
「櫻井!」
全ての授業が終わり、下駄箱で靴を変え下校しようとしていた時だった。
名前を呼ばれ振り返ると、榊原が走ってきた。
「圭吾の家を出たって本当かよ?」
目の前までくると、小さな声でそう言った。
「…うん」
情報が流れる速さに驚いた。
「何かあった?」
榊原が様子を窺うように聞いてきた。
「…ないよ。ただ、そろそろ母親の元に戻りたいと思っただけ」
目を逸らしちゃダメだと思い、榊原の目を見て答えた。
「そっか…ならいいけど。何かあったと思って心配した」
安堵の息をついた、榊原。
「…」
そんな姿を見て本当に、何で今まで気付かなかったんだろう。
「じゃあ俺、部活戻るわ。何かあったら言えよ?」
榊原は手を振りながら、来た道を走って戻って行った。
「…ありがと」
ちゃんと向き合えば、自分がどれだけ愛されていたかもっと早く気付けた。
柳先生、蘭、榊原のいるこの居場所だけは、守りたい。