愛されたい、だけなのに



「え…何でここにいるんだよ…朝会った時に、墓参りに行くなんて一言も言ってなかっただろ?」

花を片手に、柳先生が私達のところまで駆け寄ってくる。

「朝に急に来て、彩菜の洋服貸してくれって言ってさっさと帰っちゃったから、話す暇なかったのよ」


あ…そうだ。

今着ている洋服、お母さんがお姉さんのために買って来たんだ。


「…っ」


お礼言わなきゃー…


「あのっ…」

「でも、マナちゃんに似合う洋服で良かったわ」

「!」

「彩菜が生きていたらと思って買った洋服なの」


ドクン!


お礼を言おうと思ったのに、それを聞いてしまうと言葉を失ってしまう。


ドクン。

お姉さんが生きていたらー…

ギュっと手で胸の辺りを握りしめる。


「…母さん、櫻井が困ってるから」


柳先生が私とお母さんの間に、割って入った。


「墓参りに来たんだろ?早く姉さんのとこ行かないと」


今見えるのは、柳先生の背中。


さっきまで胸が苦しかったのに、今は少しホッとする。



「…そうね。行きましょ」


そう言ったお母さんの声が聞こえ、再び歩き出す。










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