愛されたい、だけなのに
職員室の前まで来ると、室内の声が外まで聞こえてくる。
「柳先生はどこにいるんですか!?」
「この問題の当事者がいなければ、話になりませんよ!」
「その通りなんですが、柳先生は1ヶ月前には退職願いを出されてるわけで…」
「退職願いを出したとしても、今日まで働いてたわけでしょ!?」
「そうなんですが…」
「この問題をなかったことにするんですか!!?学校側は!!」
「隠蔽するつもりですか!?」
言い合いになっている校長先生の声、女性の声や男性の声が聞こえてくる。
今、起こっている事態の大きさがわかる。
「…」
お母さんに事情を説明してもらったら、何とかなるかもしれないと思った。
けど、その考えは甘かったかもしれない。
「…さっきまでの威勢はどうしたのよ」
「!?」
職員室の前で動けずにいると、母親がそう言った。
「っ…誰のせいで…」
母親の言葉にカッと、頭に血が上る。
「事情を説明したら、私は帰るから」
そう言い、母親は職員室の扉に手をかけた。
「…これが、現実なんでしょ?」
「!」
横を通り過ぎる時に聞こえた、母親の言葉。
「失礼します。櫻井マナの母親です…この度はー…」
振り返った時にはもう、母親は職員室の中へと入って行った後だった。