愛されたい、だけなのに
「1ヶ月前、一緒に姉さんの墓参りに行っただろ?あの時に、もう解放されたって思ったんだ」
解放?
一緒にお墓参りに行った時のことを、思い出す。
「姉さんと、同じ思いをして欲しくない。その一心で教師になって、今日まで続けてきた」
柳先生が、校舎を見上げながら話す。
「けどあの日、櫻井が姉さんにお礼言ってくれただろ?それを聞いた時、ずっと心に張り詰めていたものがスッと消えた気がしたんだ」
その横顔を、黙って見つめる。
「姉さんのために教師になった。けど、もういいんだって」
柳先生は校舎を見上げていた顔を、こっちに向けた。
「教師を辞めてもいいと思った。俺は、俺の人生を生きなきゃいけないんだと思ったんだ」
真っ直ぐな目で見つめられる。
「そう思ったら、すぐ行動していた自分がいた。墓参りの次の日には、校長に連絡とって休みなのに退職願いを渡しに行った」
お墓参りの次の日って、昼間は用事あるからって出掛けて行った日。
「だから、櫻井のせいじゃないよ。辞める前に、こんな騒動になってしまったのは予想外だったけどな」
「でもっ…」
私のせいじゃなくても、生徒の私と一緒に暮らしていたことがバレてしまった。
ただ辞めるだけでは、済まないかもしれない。