命の灯が消える、その時まで



*・*・*

「ん? どうした?」

「……がい」

「何? どうしたんだよ」

「お願い、滑って…」

「は?」


眉を顰めて、怪訝そうな顔をする彼。

私は必死で藤塚くんに説明した。

ずっと秘密にしてきたことを。


「ごめんね、藤塚くん。私もうすぐ死んじゃうの…」


藤塚くんは、何も言わない。

もしかしたら聞いていないのかもしれない。


でも、彼に限ってそれはないな。

そう信じて話し続けた。


「私ね、ガンで余命あと少しなの。それでね、熊沢先生にこれが最後の外出だろうって…。だからね、だから最後に、藤塚くんが滑ってるところが見たいの。大好きな藤塚くんが滑ってるところを…」


ハッとして両手で口を押さえた。

待って、私今なんて…。

「大好きな藤塚くん」なんて、言うつもりなかったのに…。


「ごめん、迷惑だよね…」


俯く私の視界に、私たち2人の影がうつる。

その影が、1つに溶けた。


「バカ、なんで言ってくんなかったんだよ…」

「だって、知られたくなかったの…。余命あるってわかったら、もっと離れていかれちゃう気がして…」

「そんなことあるかよ。お前はお前だろ?」



溢れた涙が、藤塚くんのシャツに吸われて消えていく。

頭の上の温かい手が、その言葉が本当だと、示していた。


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