命の灯が消える、その時まで
私はもう1度五線譜に視線を落とした。
一体なんのつもりで彼はここにいるのだろう。
もしかして私と一緒にいたいから、なんて。
ありもしないことを考えながら音を紡ぐ。
あーあ、そんなこと、嘘でもいいから言ってくれたらいいのに。
不意に、五線譜に私以外の影が落ちた。
『えっ? 』
もしかして巳影くんかな、と少し期待をしながら顔を上げた。
『あっ!』
人生そんなに甘くない。
私の目の前に立っていたのは、少し怒った顔をした看護師の高瀬さんだった。
隣の巳影くんもぎょっとしたように体を仰け反らせた。
『あなたたち、消灯時間は過ぎているでしょ! 何してるの! 』
小声で、だけど怒気を含んだその声に、2人揃って縮こまる。
『ごめんなさい、眠れなくて…』
『さーせん』
咄嗟に出た謝罪の言葉。
高瀬さんは呆れたようにため息をつくと、仁王立ちのまま言った。
『謝れば済むことじゃないでしょう。他の患者さんもいるのだから、夜は静かに寝なさい。いいわね? 』
そう念を押した高瀬さんは、私たちを病室まで連行した。