命の灯が消える、その時まで
長い前髪はまとめて横に流されていた。
そして薄っすらとメイクを施された顔。
さっき顔の上で何かやってたのは、これだったんだ…。
恐る恐る髪に手をやると、なんだか凝ったことをしてくれたらしく、でこぼことした手触りだった。
だけど、手鏡ではその全てが見えない。
ちょっぴりしょげていると、それを読み取ったように夕凪ちゃんが私の手を引っ張って立ち上がらせた。
『え、ちょ…』
『洗面所行くの! 』
有無を言わさぬ勢いで連れてこられた洗面所。
そこの大きな鏡に映ったのは、ほんとに自分なのかと疑いたくなるようなかわいい人。
2つにわけて耳の下で結わえられた髪はコテでも使ったのか、ふわふわしていて。
だけど、根元の方は編み込みされていた。
ふんわりした髪型やナチュラルメイクのおかげで、ひらひらのワンピースもあんまり浮いてないかも。
『うん、かわいい』
『あ、あの、ありがとう…』
おずおずとお礼を言うと、夕凪ちゃんにパシンと肩を叩かれた。
『もっと堂々としなよ、せっかくのデートなんだから。それにこんなにかわいくなったのは萌音のもとがいいんだからね! 』
私は叩かれた肩をさすりながら、泣きそうになるのを堪えて、何度も何度も頷いた。
『よし、2人待たせてるし、そろそろ行かなきゃ』
『う、うん! 』
ワンピースの裾をはためかせて、病院の廊下を駆け抜ける。
途中で高瀬さんの起こった声が聞こえたけど、気にしない。
だって、オシャレの魔法にかかった女の子は、無敵なんだもん。