命の灯が消える、その時まで
向かったのは、あの部屋。
ピアノのある部屋だ。
前回同様鍵はかかってなくて、すんなり中に入ることができた。
「さーてと…」
とりあえず、スマホで録音しようかな。
いろんなフレーズを試してみて、あとで厳選すればいいや。
「よし」
蓋を開けて、椅子を引く。
浅く腰掛けて、白と黒の鍵盤に手を乗せる。
その幾何学模様に惹かれるように、私の指は鍵盤を滑り出した。
和音も単音も、スラーもスタッカートも。
全て私の思い通り。
気持ちの赴くままに曲は膨らみ、縮み、また膨らむ。
フォルテは大きく、雄大に。
ピアノは優しく。
こんなの当たり前。
私の中では、フォルテもピアノも優しく、雄大に弾くの。
この2つの違いは表情ただ1つ。
気持ちの昂ぶりを表現してくれるフォルテ。
潮が引くように束の間の静けさを表現するピアノ。