僕は君に夏をあげたかった。
佐久良くんは驚いた表情を浮かべていたが、すぐに嬉しそうに顔をほころばせた。

防波堤から立ち上がり、そばのテトラポットを飛び移るようにして砂浜へと降りてくる。

彼の履いているビーチサンダルが、浜の砂に足跡を作った。


「……松岡さん、ひさしぶり」


麦わら帽子を顔が見えるように上へとずらし、佐久良くんは笑みを浮かべる。

私よりもずっと上手に砂浜を歩いて、すぐそばまでやってきた。

彼の足跡が防波堤からのびている。

それはすぐに寄せる波にさらわれ、かすかな波音とともに消えてしまった。


「さ、佐久良くん……」


未だ混乱から抜けきれない私と対照的に、佐久良くんはすでに平然としている。


「ビックリしたよ。どうしてここに? まさか引っ越してきたの?」


「ううん、…違う。おじいちゃんの家が近くにあって、それで夏休みの間だけここに……」


「え? でも、夏休みって……もうちょっと先じゃない?」


「……ん」


私は曖昧にうなずき、佐久良くんから目をそらす。


…痛いところを突かれた。

確かに今はまだ7月の頭。

夏休みまではまだ十数日ある。


どう誤魔化そうか答えあぐねていると、佐久良くんは『まあ、いいか』と肩をすくめた。


「……俺も同じようなものだし」


そう言うと、麦わら帽子を脱いで軽く首をふる。

彼の細い髪が、夏の日差しに透けるように輝いた。

これだけ強い日差しにも関わらず、佐久良くんの肌は白い。

中学のときも色白の印象だったけれど、今はあのときよりも白い気さえする。
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