僕は君に夏をあげたかった。
「……私……」

「まさかこんなところで会うとは思わなかったよ。すごく驚いて、嬉しくて…少し悲しかった」

「悲しいって、どうして…」

「俺は、もうあと少しで死ぬんだと思っていたから。それなのに、ずっと好きだった松岡さんにまた会って……どうせすぐ死ぬのに、なんて残酷なんだろうと思ったよ」

「…………」

「でも、再会した君はいつも寂しそうで、つらそうで、中学のときの明るい笑顔が消えていた。なにかあったのだろうとは思ったけれど、それがなにかはわからない」


佐久良くんは海に向けていた眼差しをこちらに戻す。

彼の瞳が花火の色に瞬いていた。


「だから俺は思ったんだ。君の……力になりたい。俺が……また君に笑顔を取り戻したいって。

もうすぐ命を終える俺が、こうしてまた松岡さんに会えたのは、もしかしたら意味があるかもしれない。

死ぬ前に、好きだった人の力になれるなら、すごく幸せなことなんじゃないかって」


「それで……いつも私と一緒にいてくれたの?」


「うん……。よく考えたら、なんか図々しい話なんだけどな。結局、なにをしてあげたらいいかわからかったわけだし」


「……そんな」


私は大きくかぶりをふる。


「私……佐久良くんと再会できて、一緒にいられて本当に嬉しかった。恋人になれて夢みたい。今の私にとって……佐久良くんが心の支えだよ」

「松岡さん……」


くしゃり、と。

佐久良くんの顔が悲しげにゆがんだ。
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