僕は君に夏をあげたかった。
「………俺、もっと生きたい」


佐久良くんがつぶやく。

それは小さなつぶやきだったのに、花火の音に負けないくらい私の耳にハッキリと届いた。


「もう死ぬものだって諦めていたのに。最期に君の力になれれば、それだけでいいって……本当にそう思っていたのに」


佐久良くんの声に嗚咽がまじる。

いつもいつも笑顔で、ほとんど怒りも悲しみも見せなかった彼の頬に

…涙がつたった。


「……佐久良くん……っ」


私はたまらず、佐久良くんを抱き締める。

我慢していた涙がポロポロこぼれ落ちた。

結局、…私の方が泣いている。

どうして私はこんなにも弱いのだろう。


「……わ、たし、佐久良くんに生きていてほしいよ。佐久良くんがいないと、どうしたらいいかわからない。わ、私も……生きていけない……!」

「松岡……さん」

「佐久良くんが好き。誰より好き。誰より大切だよ。佐久良くんがいなくなるなんて……考えられない……たえられない……よ……」


私は泣きじゃくりながら、佐久良くんと何度も何度も名前を呼ぶ。

そんな私を佐久良くんは抱き締め返してくれた。

佐久良くんの身体は、服の上からでもわかるくらい細くて……でもあたたかかった。

ハッキリと心臓の鼓動を感じた。


「……松岡さん」


抱き締める力が強くなる。

私を呼ぶ佐久良くんの声。

それが力強いものになった。
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