僕は君に夏をあげたかった。
夏の絵
***

中学時代。

佐久良くんの転校は、とても急な出来事だった。

あの日、佐久良くんは数日欠席が続いていて

でも病弱な彼には珍しいことではなかったので、心配はしていたものの、またすぐに会えると思っていた。


…だが、週が変わった月曜日。

いつものように部活に行くと、私はそこで顧問から佐久良くんの転校を告げられたのだ。


あまりに突然の別れ。

理由もわからず、さよならさえ言えず

私の初恋はそこで宙ぶらりんになった。


……最後に彼と交わした会話はなんだったか。

そんなことも思い出せない。


好きな人と会えなくなったのに

悲しいとか、さみしいとかよりも

どうして?という気持ちが強く残った。


本当に、突然いなくなった佐久良くん。


残されたのは、彼が最後に描いていた1枚の絵。

夏の海を描いた、どこまでも青く蒼い、吸い込まれるような絵。

いつの間に描きあげていたのか

きれいに完成された状態で美術室に置かれていた。


その見事なブルーをきっと一生忘れない。

私の初恋の色だった。




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