僕は君に夏をあげたかった。
「……え、いいの?」

「うん。だって君のことを描いた絵なんだし」

「ありがとう……。じゃあ、楽しみにしてるね」

「うん……」


佐久良くんが、わずかに日傘をかたむける。

それはこの暑さに負けず砂浜で遊ぶ子供たちから、自分たちを隠すためだと気づいたのは、唇が重ねられてから。


「……ん」


唇と通して伝わる彼の熱。

ふれる吐息すらも熱い。

だけど、私は佐久良くんの熱も息もすべて受け入れるように、ついばむようなキスを繰り返した。


「……ずっと君のこと想っているから」

「私も………」

「だから、負けないよ。帰ってくるから」

「うん。待ってる。ずっと待ってるからね」


日傘の向こう。

夏が私たちを見ている。

きっと私たちを試している。

でも負けない。

ここで終わりじゃない。

夏も、秋も、冬も。そして春も。

この人と一緒にいるのだから。



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