僕は君に夏をあげたかった。
「………」


手紙を読み終わった私は、深くため息をついた。

ひどく自分が恥ずかしい気持ちだった。

田中さんからの手紙には、私が予想していたような社交辞令はあまり見られなかった。

代わりに……私の弱さを見透かすような、そんな鋭さがあるように思えた。

それは、以前に佐久良くんが見せた鋭さによく似ている。


佐久良くんは、お父さんの再婚以来なにもうまくいかなくなったと泣く私を『うまくいかないのを再婚のせいにしているだろう』と諭した。

そのとき私はカッとなってマトモに聞けなかったけれど。

そうだ、きっと。あのときと同じ。

私はクラスでうまくやっていけないのを言葉のせいにしていたけれど、そんなものただの言い訳だった。

結局は自分の弱さの招いたこと。

新しい環境がこわくて、馴染む努力を放棄して

それを一番わかりやすい言葉のせいにした。

だって、それが楽だったから。

方言の違いで馴染めないのだということにしておけば、私という人間のギリギリのプライドは守られる。

私の人格や性格が否定されたわけではない、と。

そう思おうとしていたんだ。


……それを、田中さんの手紙でハッキリ気づかされた。



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