僕は君に夏をあげたかった。
「……おじいちゃん」


階下におりて、おじいちゃんを探す。

いつもなら台所でなにか作業をしているころだろうか。

でも台所をのぞくと誰もいない。


……どこにいるんだろう。


「……おじいちゃん、話があるの」


すると、居間の方から話し声が聞こえてきた。

ぼそぼそと、どこか声を潜めるように話している。

おじいちゃん以外の声はしないので、おそらく電話で話しているのだろう。


……電話が終わるまで待っていようかな。


そう思い、居間のふすまの前に立つ。

すると、


「……ああ。麻衣ちゃんには……そうやな……いつ知らせよか………ああ……」


そんな声が漏れ聞こえてきた。


(……私?)


思わずふすまに近づき、聞き耳をたてる。

おじいちゃんは鼻をすするような音をたて、ゆっくり続けた。


「……夏くん、残念やったな。可哀想に……まだ若いのに……」


ーーーーえ。

佐久良、くん……?


「……頑張ってたのに。亡くなってもうたなんて……」


「………っ!?」


その、言葉に。

頭が真っ白に、いや真っ暗になった。



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