僕は君に夏をあげたかった。
ガタンッ……

いやに耳障りな音がした。

私がその場に崩れ落ちる音だった。


身体に力が入らない。

膝が、脚が、身体がガクガクと震えている。


「………ま、麻衣ちゃんか!?」


音を聞き付けたのか、おじいちゃんが部屋から出てきた。

でもそのおじいちゃんの声も、姿も、とても遠いものに感じる。

何もかもが私の中に入ってこない。

ただ、ドクドクと自分の心臓の音だけがうるさかった。


佐久良くん。

佐久良くん。


その、儚いけど優しい笑顔と、熱い体温が思い出される。


佐久良くん。

佐久良くん。

ねえ、佐久良くん。


……絶対戻ってきてくれるって言ってくれたよね。

だから大丈夫だよね。 


私とずっと一緒にいてくれるって言ったじゃない。

嘘じゃないでしょう。


佐久良くん。

私、あなたがいないと生きていけないよ。



「………お、じいちゃん………今の話………」


震える声でおじいちゃんに問いかける。

そうしているあいだも、涙でどんどん視界がぼやけていく。

おじいちゃんの姿がゆがんでみえる。


「………麻衣ちゃん、聞いていたんか」


その表情までもつらそうにゆがんで見えたのは、涙の視界のせいだろうか。
< 118 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop