僕は君に夏をあげたかった。
「……さ、佐久良くんが……佐久良くん………が、なんて……うそ、だよね………。おじいちゃん、ねえ……そんなこと、ないよね………」

「……麻衣ちゃん」


眉間にしわをよせ、私を見つめるおじいちゃん。

くちびるを軽く噛み、ふいっと目をそらした。


そして……


「……うそやない。昨日の深夜に………」

「……っ」

「わしもうそやったらと思ったけど、……うそやないんや……」

「……そ、んな………い、や……いや………」

「麻衣ちゃ……」

「いやっ!!うそだ!!いやああああ!!!」


のどが熱くなるほどの叫び声がもれた。

私に差し出されたおじいちゃんの手を振り払う。

そのまま頭を抱え、叫び続けた。


「やだ………佐久良くん………っ!いやだ………やだ………っ……やだああ!佐久良くん、佐久良くん、佐久良くん!!!!」


のどが痛い。

目も鼻も口も、すべてが熱く痛い。

そして何より胸が痛い。苦しい。引き裂かれるように激しく痛む。 


このまま痛みに身を任せ、いなくなってしまいたい。

どけだけ泣いたら、叫んだら、この息を止めることが出来るのだろう。


佐久良くん。佐久良くん。佐久良くん。


この声にもう答えてくれる人がいないなら。

あなたが私のところにもう帰ってきてくれないなら。

私の生きる意味なんてどこにもない。
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