僕は君に夏をあげたかった。
ーーーなー。
「………!?」
声が。
聞こえた気がした。
それは人間のものではない。
でも聞き覚えのある、懐かしい声。
「………シジミ?」
そんなわけない。
シジミはもういないんだ。
あのこもまた、私を置いていなくなってしまったんだから。
ーーーなー。
でも。
そんな私を否定するかのように、また鳴き声が聞こえてきた。
ーーーなー…なー…なー
何度も。何度も。
まるで私を呼ぶように。
「………シジミ………まさか、本当にシジミなの?」
半信半疑ながら、ゆっくりと部屋を見回す。
すると、窓のところ。
わずかに空いたカーテンの隙間から、見覚えのあるシルエットが浮かび上がっていた。
「……え」
おそるおそる窓に近づき、カーテンを開く。
そこには月明かりに照らされるように光るシジミが、ふわりと浮かんでいた。
「……し、シジミ?」
ーーーなー。
返事をするように鳴くシジミ。
するり身をひるがえすと、夜空に飛び込むように去っていこうとする。
だが、一瞬こちらを振り向いて、また鳴いた。
「………もしかして、ついてきてって言ってるの……」