僕は君に夏をあげたかった。
悲しみでぼんやりしている頭の中。

それでもシジミの声だけがリアルに響く。

気づけば私は部屋を飛び出し、階段をかけおりていた。


…シジミが呼んでいる。

私を呼んでいる。

佐久良くんと一緒に私のそばにいてくれた、シジミが呼んでいる。


玄関へ向かい、サンダルをひっかけ外に出ようとする。

すると奥からふすまを開く音がして、おじいちゃんの叫ぶ声がした。


「………麻衣ちゃん!?どうしたんや。どこに行くんや」

「………」


でも、私はそれを無視して扉をあける。

それどころではなかった。


「……麻衣ちゃん!?」


おじいちゃんが駆け寄ってきて私の腕をつかむ。


「麻衣ちゃん、どこ行くんや。もう夜やで。危ないから家におりなさい」

「………いや!離して!呼んでいるの……私、いかないと………!」

「!?
麻衣ちゃん、行ったらアカン!ここにおり!もうすぐお父さんたちも来てくれるから」

「……え?
………っ、やめて………!」


私はおじいちゃんの腕を振り払った。


「お父さんなんて知らない!
私は………行くの………っ!呼んでいるから、いっしょに行くの……!」


そう叫ぶと、振り返らずに夜の闇の中に走り出した。

シジミの声だけを頼りに。


「……ま、麻衣ちゃ……!」


おじいちゃんが私を呼んでいる気がしたけれど。

もうどうでもよかった。



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