僕は君に夏をあげたかった。
夜の町をサンダルで走る。

昼とは全く違う姿を見せる夜の町。

いなかの夜。

街灯は少なく、車もほとんど走っていなくて。

本当に闇だけが広がっているように思えた。


そんな中、私を導くのは鳴き声と、前でぼんやりと光る猫の後ろ姿。

その輝きと、ふわりと浮いた様子からこの世のものでないのは明らかで。

だからこそよけいに安心できた。


「………はあっ、はっ、はあ……」


どうしてこんなに懸命に走っているのかわからない。

ただ、今はシジミだけが私を支えてくれる存在に思えた。

佐久良くんの影を追い求めているだけかもしれない。

佐久良くんとシジミと一緒に過ごした、あの日々を………。




「………はあっ………」


やがて到着したのは海だった。

真っ暗い夜の海。

水平線が曖昧なくらい空も海も真っ黒で

星の光さえ、その暗さを照らすには十分な力を持っていない。

ただ波の音だけがひっきりなしに響いていた。


ーーーなー……


シジミは一声鳴いて、その闇の中に入っていく。

海面をすべるように前へと進む。

そして途中でピタリと足を止めて、私を振り返りまた鳴いた。
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