僕は君に夏をあげたかった。
なー……


シジミは寂しそうに鳴くと、海面を軽やかにかけていく。

私のいる場所より、もっと沖へ。


「……シジミ……っ!」


思わずシジミを追おうとする私の前に、さらにもう1つの光が現れた。

シジミのものより大きく、だけど弱い光。

シジミはその光の足元に身体を寄せた。

光はシジミをつつみこみ、抱き上げる。


「…………あ」


抱かれたシジミを目で追うように顔をあげると、懐かしい瞳と目が合った。

優しくて、儚い瞳。

細い身体と、穏やかな笑顔。


「……さく………ら………く」


佐久良くん。

私の好きな人。

ずっとずっと大好きな人。


シジミと同じようなまばゆい光をまとい、海に浮かぶように立っていた。


「………佐久良、くん」


笑顔は変わらず優しくて。

最後に別れたときのようなどこか苦しそうな様子はなかった。

今までで一番きれいな姿だとすら思った。


でも、もうそれは以前の佐久良くんじゃなかった。

私を好きだと言ってくれた、キスを交わした、帰ってくると約束してくれた佐久良くんじゃなかった。

今は、シジミと同じような光につつまれた、私と違う世界の存在。

私と生きていくことはできない人だ。
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