僕は君に夏をあげたかった。
「………佐久良くん、どうして………。私、私………信じていたのに。あなたと生きていきたいって、ずっと一緒に生きていくんだって……思っていたのに……。

私のこと好きだって………守ってくれるって言ったのに……

なのに……

なんで置いていっちゃうのぉ!?なんで、なんで、私を置いて……いっちゃうの!?

なんでよ……、なんでぇ!!」


叫ぶたび、海水が私の口に入る。

もはや水なのか何なのかわからないものを吐き出しながら、私は佐久良くんへと泣き叫んだ。


佐久良くんはその笑顔を悲しげに曇らせ、かぶりを振る。

涙は出ていなかったけれど、今にも泣き出しそうな表情だった。


佐久良くんはシジミをゆっくりと足元におろす。

そしてその手を私に差し出した。


ーーーいっしょに、いく?


どこからか。

頭に直接語りかけるように、そんな声が響く。

佐久良くんの目を見ると、彼はゆっくりとうなずいた。


………いっしょに。

佐久良くんといっしょに。

その言葉の意味。

この世界を捨てること。

もう二度と戻れなくなること。

もう………生きていけないということ。



「………佐久良くん。

…………連れて、いって………」



私は佐久良くんに向かって腕を伸ばす。

ことさら高い波が目の前に上がった。




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