僕は君に夏をあげたかった。


ーーーー麻衣子!


(………え)


名前を呼ぶ声がした。

誰の?

そう思う間もなく、私の視界は暗い水にふさがれてしまう。

夜の高波。

それはあっという間に私をとらえ、海の中へと引きずり込んだ。


「………っ!う……っ……!」


真っ暗な視界。

何も見えない。

息も出来ない。

声も、吐く息も、すべてが水の泡になり、海の中へと消えていく。

ただ自分が海の水にとけていくような感覚だけがハッキリとわかった。


(………苦しい)


気が遠くなる。

目の裏がチカチカして、頭の中が火花が散ったように真っ白に見えた。

手も足も動かすことができずに、ゆっくりと、ただゆっくりと身体が沈むのに任せていった。


………これで。

これで、全部終わる。

もう終わるんだ。



ーーーー麻衣子!


……また、声。

誰の声……?

誰かが私を呼んでいる。


この声は…………



「………麻衣子!どこだ、どこにいるんだ。麻衣子!返事をしてくれ!父さんに答えてくれ!」



………お父さん!?




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