僕は君に夏をあげたかった。
真っ白になった頭の中。

なぜかハッキリとある光景が浮かび上がった。



夜の海。

海岸の砂浜に、お父さんがいる。

懐中電灯を持って、おじいちゃんやあずささんと一緒に大声で叫んでいる。

周囲には、商店街やお祭りで見た、この町のおじさんたちもいた。


「……麻衣子!どこだ、麻衣子!」

「海に来とると思ったんやけど……違うんやろか。麻衣ちゃん、どこに行ったんや」

「……っ!
優一さん、これを…!今、波打ち際に流れてきたわ……」

「サンダル………?」

「これ………うちのサンダルや!麻衣ちゃんが出ていくときに履いていたやつや………!」

「なに……っ!?」


お父さんがサンダルを持ったまま、海に入っていこうとする。

それを慌てて、商店街のおじさんたちが止めた。


「おいっ!アンタ、何をする気や!」

「……離してください!麻衣子が………娘が、多分海に行った。海に入ってしまったんだ……!」

「アカン!落ち着きや!こんな真っ暗で、海の中を探すのなんか無茶や。今は波も荒れてきとる。あんたが溺れてまうで」

「かまわない!娘がいるんだ!娘が………娘が溺れてしまう……!頼む、離してください!

麻衣子………麻衣子が………っ!麻衣子………!」
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