僕は君に夏をあげたかった。
「………麻衣子!」
突然、腕をつかまれ、ひっぱりあげられた。
沈む一方だった身体は一気に海上へ。
顔が水の上へと出て、口から鼻から酸素が急激に取り込まれた。
「………ぷはあっ!はあっ……はあっ………うっ………げほっげほっ……がほっ……!」
あまりに急に息を吸い込んだため、肺がついていけなかったのか、私ははげしく咳き込んだ。
のどの奥から海水が吐き出され、焼けるように痛い。
………でも、確かに息が出来る。
私、生きている。
「………あ………私………」
「麻衣子、大丈夫か?」
「……っ!」
助けてくれたのはお父さんだった。
泳ぎながら、私を引き上げてくれたらしい。
お父さんは私を支えながら、海中を泳ぐ。
背中をさすり、まだうまく呼吸が整わない私をなだめてくれた。
「………お父さん………」
「麻衣子………!何てことをしたんだ!死ぬところだったんたぞ!」
「………っ、おと…っ……お父さん………。あの………その………ご…………ごめんなさ……い」
「…………無事で………」
「………え」
「………無事で………良かった」
お父さんはそういうと、私を抱きしめ、肩をふるわせて泣き出した。
「……お、おと……さん。お父さん………お父さん………ごめんなさい………うっ、ああっ、う………ごめんなさい………ごめんなさああい………っ!」
私もお父さんにつかまり、声をあげて泣いた。
海なのか涙なのかわからない。
ただのどが痛くて、そして苦しかった。