僕は君に夏をあげたかった。
「……優一さん、麻衣ちゃん!こっちへ」


船が近づき、あずささんがそこから手を伸ばす。

波にやられたのか、あずささんの身体もずぶ濡れになっていた。

でもそんなこと全く気にする様子もなく、私たちだけを見つめて手を伸ばす。

私はあずささんに引き上げられ、船へと乗り込んだ。

あずささんは心から安心したような笑顔を見せて、私を抱きしめた。


「………麻衣ちゃん、良かった………!本当に良かった………」

「あずささん、どうして………」

「おじいさんから連絡があったのよ。麻衣ちゃんがとても落ち込んで苦しんでいるから、来てほしいって。

でも来たら麻衣ちゃんは家を飛び出したっていうし、探しても見つからないし、そうしたら海でサンダルが見つかるし。わたしたち、心配で心配で………」

「………ごめんなさい」


私が謝ると、あずささんは泣きそうな顔でかぶりを振った。


「………大体のことはおじいさんから聞いたわ。
麻衣ちゃん………つらかったね。悲しいね………さみしいね。
ごめんね、本当につらいときに、そばにいてあげなくて。わたしたち……家族なのにね………」

「………あずささん………」


また涙が流れる。

とめどなく、いつまでも。

あずささんがそれを優しくぬぐってくれた。
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