僕は君に夏をあげたかった。
私のややネガティブな発言に、おじいちゃんは顔をくしゃりとさせて、おおらかな笑みを浮かべた。


「そんなん心配ないやろ。たかだか2年やんか。
どうやら夏くんも、ほとんど毎日一人で過ごしとるみたいやし。麻衣ちゃんが来て、内心喜んどるかもしれへんよ」


「………そっかな」


確かに、さっきの彼の態度からはどちらかといえば、好意的なものを感じたけれど。

本当に私を歓迎してくれるのだろうか。


(……あれ、そういえば……ほとんど一人って……)


ふと、違和感にも似た疑問が沸き上がる。


「……ねえ、おじいちゃん。佐久良くんってどうしてこの町にいるの?

毎日一人でいるってことは、学校には行ってないの?」


佐久良くんは『夏休み』みたいなものといってはぐらかしていたけれど

やっぱり気になって仕方ない。

こんないなか町で、平日の昼間から一人で海にいるなんて不自然だ。

……まあ、私自身の立場も似たようなものだけれど。


「……うーん。せやなあ。わしも詳しく知ってるわけやないんやけど」


おじいちゃんには珍しく、歯切れの悪い口調で、モゴモゴと言い淀む。

なにも知らないわけでないのは明らかだ。


じっと見つめて続きを待つと、おじいちゃんは観念したように話し始めた。


「……夏くんは療養に来とるらしいで」


「療養……?」


「そう。ここは空気がええからな。しばらくの間、のんびり身体を休めるんやって、親戚のとこにおいてもらっとるらしい……」


「………」



< 14 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop